静岡県浜松市を中心とする遠州地方で、江戸時代から織り継がれてきた伝統織物「遠州織物」。細番手・高密度に織り上げたブロード生地は海外の高級メゾンブランドにも採用されるほどの評価を得ていますが、その一方で機織り工場の数は最盛期の1割以下まで減少し、技術継承が大きな課題となっています。この記事では、遠州織物という産地そのものの魅力と、その技術を今に伝える産地発ブランド「HUIS(ハウス)」、そして2025年に話題となった俳優・松重豊さんとのコラボ企画まで詳しく解説します。
遠州織物とは|静岡県浜松市に息づく織物産地
遠州織物は、静岡県西部(遠州地方・浜松市周辺)で織られる織物の総称です。特定の織り方を指す言葉ではなく、木綿を中心に麻・絹・ウール・化学繊維まで幅広い素材を扱うのが特徴で、いずれも高い染織技術に裏付けられています。中でも細番手・高密度に織り上げたブロード生地は、海外の高級メゾンブランドにも採用されるほどの評価を得ています。
一方で、生産現場を取り巻く状況は厳しく、最盛期には3,000軒以上あった機織り工場も、現在は50軒に満たない数まで減少しています。職人の高齢化・後継者不足・原材料費の高騰などが背景にあり、世界でも遠州にしかない技術や設備の継承が課題となっています。
遠州織物の歴史|江戸時代の副業から「輸出世界一」まで
遠州織物の起源は江戸時代中期にさかのぼります。温暖な気候に恵まれた遠州地方は、当時から屈指の綿花の産地でした。綿花を栽培する農家が、手織りの綿織物づくりを副業として始めたことが、地場産業としての礎になったといわれています。以来、遠州は愛知県東部の三河・大阪南部の泉州と並ぶ「日本三大綿織物産地」のひとつに数えられてきました。
産地としての飛躍は明治期に訪れます。明治17年に紡績工場が建設されると、木綿商人の活躍によって販路が全国に拡大。明治29年(1896年)には、のちにトヨタグループの創始者となる豊田佐吉がこの地で「小幅力織機」を発明し、コール天や別珍の製造も始まりました。昭和4年にはサロン織機の発明で広幅織物の生産量が飛躍的に増加し、昭和8年(1933年)には日本の綿布輸出量が世界一を記録するという黄金期を迎えています。
戦後は石油ショックや海外製品との価格競争にさらされながらも、産地は新製品開発と販路拡大に取り組み、現在に至るまで高品質な織物づくりの技術を守り続けています。

遠州織物の風合い・良さ|「紙みたいに軽い」「育つ生地」と評される理由
遠州織物の最大の魅力は、その独特の風合いにあります。旧式のシャトル織機は、木製のシャトル(杼)が左右に行き来しながら糸を織り重ねる仕組みで、糸に無理な負荷がかからないため、ふんわりとした立体感と自然な表情が生まれます。細い糸を通常の20〜30倍もの時間をかけてゆっくりと高密度に織り上げることで、驚くほど軽く柔らかいのに、しっかりとした丈夫さも兼ね備えた生地に仕上がります。
実際に遠州織物のシャツを着用したレビューでは、「紙みたい」と表現されるほどの軽さに驚く声や、「気がつくとこればかり着てる」「別の色も欲しくて買い足しに来た」といった感想が紹介されています。着るほどに風合いが増していく「育つ生地」として、長く愛用するファンが多いのも特徴です。
出典:暮らしとおしゃれの編集室「家族みんなで着まわしできる 遠州織物のロングシャツ」

遠州織物工業協同組合とは
通称「遠織(えんおり)」と呼ばれる遠州織物工業協同組合は、遠州地方の織物工場を束ね、産地の情報発信を担う組織です。デザイナーやアパレルメーカーと産地をつなぐ「窓口」としての役割も果たしています。後述するHUIS代表の松下さんも、この組合のショールームで生地と出会ったことがブランド創業のきっかけになりました。
遠州織物を今に伝える産地発ブランド「HUIS(ハウス)」
この遠州織物の技術に惚れ込み、日常着として世に広めているのが、浜松市を拠点とするアパレルブランド「HUIS(ハウス)」です。すべての商品を遠州織物で製作し、旧式のシャトル織機が生む特別な風合いにこだわり続けています。
HUIS公式チャンネルによるブランドムービー。
創業者・松下昌樹さんのストーリー|市役所職員から起業へ
HUIS代表の松下昌樹さんは、もともと浜松市役所の職員として農業・林業・水産業の振興に携わっていました。転機となったのは、遠州織物工業協同組合のショールームで、老舗「古橋織布」の生地に出会ったことです。シャトル織機で織られた生地の風合いと、その背景にある技術・歴史の奥深さに魅了された松下さんは、「遠州の繊維産業をもっと盛り上げたい」という強い思いを抱くようになりました。
そして2014年、妻・あゆみさんとともにHUISを立ち上げます。「夫婦で服が好きだったので、二人でデザインを考えて」いったと、松下さん自身が振り返っています。品質至上主義の姿勢を貫き、衰退が進む産地に対して「質で光り輝いて生き残る」道を切り拓いてきたブランドです。
出典:ほぼ日刊イトイ新聞「縫う/織る/編む」HUIS代表 松下昌樹さんインタビュー
HUISの服づくりの特徴|旧式シャトル織機へのこだわり
HUISが一貫してこだわっているのが、遠州産地に現存する貴重な旧式の「シャトル織機」です。シャトル織機はタテ糸の開口が大きく、糸に適度な遊びを持たせた状態で、ゆっくりと限界まで密度を高めて織り上げることができます。この工程には、一般的な生地の20〜30倍もの時間がかかると言われています。
その結果生まれるのが、「ハリ感」と「しなやかさ・柔らかさ」という本来相反するはずの性質を同時に持つ、特別な風合いの生地です。HUISは、この産地ならではの生地に絞って製品を作ることで、一般的なアパレルブランドとは一線を画す「産地・産業を訴求するものづくり」を続けています。

【動画】松重豊×HUIS「松重見聞録」|遠州織物の生産現場を訪ねる
2025年5月、俳優・松重豊さんがHUIS代表・松下昌樹さんの案内で遠州織物の生産現場を訪れる旅番組「松重見聞録」が公開されました。趣味のカメラを片手に全国のものづくりの現場を取材する松重さんが、遠州織物の歴史や希少性、HUISの製品が世界中から注目を集める理由を探る内容です。
「TIMELINE(タイムライン)」チャンネルによる、松重豊さんとHUIS代表・松下昌樹さんの生産現場訪問記(第三者制作のコラボ動画です)。
番組内では、世界でもカネタ織物株式会社(静岡県掛川市)の技術でしか織れないと言われる超高密度の「タイプライタークロス」の製織現場や、遠州で発展したもう一つの地場産業である養鰻業を営む株式会社海老仙も訪問。温暖な気候・豊富な日照量・地下水といった共通点から、繊維業と養鰻業がともに発展した地域産業のつながりが紹介されています。
限定シャツのクラウドファンディングも実施
この企画にあわせて、HUISはウェブメディア「TIMELINE」を運営する株式会社エブリーと協業し、クラウドファンディングを実施しました。リターン品は、カネタ織物でしか織れないという「タイプライタークロス」を使った「ばちばちタイプライタークロスシャツ」(ユニセックス、サイズ1〜3、白・グレー展開)の完全受注生産です。細番手の高級糸を、一般的な生地の限界を超える密度で織り上げた生地で、着て動くたびに独特の衣擦れの音がすることから「ばちばち」の名がついています。
柴咲コウさん×HUIS|サステナブルをテーマにしたコラボハンカチ
2025年11月24日、俳優・柴咲コウさんの全国ツアー「KO SHIBASAKI LIVE TOUR 2025 ACTOR’S THE BEST 〜邂逅〜」浜松アクトシティ公演にあわせて、HUISとのコラボレーションが実施されました。会場限定で販売されたのは、ツアーモチーフの「月と太陽」を刺繍した「なめらかコットンハンカチ」(税込2,000円)。世界の綿花生産量のわずか約2%という希少な「スーピマコットン」を、浜松市内で遠州織物の技術を用いて織り上げた一品です。
このコラボは、柴咲コウさんが代表を務めるレトロワグラース株式会社の「サステナビューティープロジェクト」の一環。会場には、柴咲さん主演のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」のロケ地でもある「久留女木の棚田」での綿花栽培プロジェクトを紹介する特別展示ブースも設けられ、遠州織物の持続的な発展を後押しする取り組みとして注目されました。
メディア掲載実績|テレビ・ラジオ・新聞・書籍
HUISは創業以来、テレビ・ラジオ・新聞・書籍など幅広いメディアで取り上げられています。
| テレビ | テレビ静岡「ただいまテレビ」で特集コーナーに出演 |
| ラジオ | 2025年11月26日、松重豊さんがマスターを務めるFMヨコハマ「深夜の音楽食堂」第478回に松下昌樹さんがゲスト出演。「松重見聞録」で意気投合した二人の対談が実現しました |
| 新聞 | 繊研新聞「記者の目」で、繊維産地の魅力を発信する取り組みとして紹介 |
| Web | ほぼ日刊イトイ新聞「縫う/織る/編む」、新R25など |
創業10周年と2冊の書籍出版
2024年、HUISは創業10周年を迎え、松下昌樹さんの初めての著書『HUIS.の服づくり -遠州発の産地発ブランドがアパレルの常識を変える-』(主婦と生活社)を2024年3月4日に発売しました。価格は税込1,760円です。ブランド立ち上げの経緯や遠州織物についての解説、HUISの定番商品紹介に加え、日本の繊維産地が抱える課題やアパレル業界の問題にも踏み込んだ、ビジネス書としての側面も持つ一冊です。渋谷スクランブルスクエアの新ショールーム開設にあわせて先行販売も行われました。
さらに2026年5月15日には、講談社から2冊目となる著書『産地発アパレルという選択――業界の常識に挑む遠州発アパレルブランドHUISの挑戦と軌跡』(332ページ・税込1,650円)を発売。1冊目がブランドストーリー中心だったのに対し、こちらは日本の繊維産地が直面する構造的な課題を一次産業と対比しながら分析し、「小規模でもできるブランド戦略」「地域資源をどう価値に変えるか」といった実践論に踏み込んだ、より経営書寄りの一冊になっています。
出典:講談社 書籍情報ページ
HUISの購入方法・店舗情報
| 公式オンラインストア | HUIS onlinestore |
| ショールーム | 渋谷(スクランブルスクエア9F)・丸の内・横浜(ベイクォーター)・立川(GREEN SPRINGS)・名古屋(グローバルゲート)・豊橋など全国7箇所(2026年5月時点) |
| 取扱店 | 全国約80店舗(2026年5月時点) |
HUISの商品は、楽天市場の取扱店でも購入できます。
よくある質問(FAQ)
Q. 遠州織物とは何ですか?
静岡県西部(遠州地方・浜松市周辺)で織られる織物の総称です。木綿を中心に麻・絹・ウール・化学繊維まで幅広く手がけ、高い染織技術で知られています。特に細番手・高密度のブロード生地は海外の高級メゾンブランドにも採用されています。
Q. HUIS(ハウス)とはどんなブランドですか?
静岡県浜松市を拠点に、すべての商品を遠州織物で製作するアパレルブランドです。2014年に松下昌樹さん・あゆみさん夫妻が創業しました。旧式のシャトル織機で織られた生地にこだわり、産地の魅力を発信するものづくりを続けています。
Q. HUIS代表の松下昌樹さんはどんな経歴の方ですか?
もともと浜松市役所の職員として農業・林業・水産業の振興に携わっていました。遠州織物工業協同組合のショールームで生地に出会ったことをきっかけに、その技術と歴史に魅了され、市役所を辞めて2014年に妻・あゆみさんとHUISを立ち上げました。
Q. 松重豊さんとHUISのコラボはどんな内容ですか?
2025年5月、俳優・松重豊さんがHUIS代表・松下昌樹さんの案内で遠州織物の生産現場を訪ねる旅番組「松重見聞録」が公開されました。同時に、世界でもカネタ織物(掛川市)でしか織れないという超高密度の「タイプライタークロス」を使ったシャツの限定クラウドファンディングも実施されました。
Q. HUISの商品はどこで買えますか?
HUIS公式オンラインストアのほか、渋谷・丸の内・横浜・立川・名古屋・豊橋など全国7箇所のショールーム、全国約80店の取扱店で購入できます。
まとめ
HUISは、衰退が進む遠州織物という産地の技術に惚れ込んだ元市役所職員・松下昌樹さんが、妻とともに立ち上げた産地発ブランドです。旧式シャトル織機でしか生み出せない生地の風合いにこだわり抜いた製品づくりと、俳優・松重豊さんとのコラボ企画のような積極的な情報発信によって、日本のものづくりの新しい形を提示しています。創業10周年を迎えた今、書籍出版や全国のショールーム展開など、その活動はますます広がりを見せています。
※店舗情報・商品ラインナップ・価格は変更になる場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。


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