スマートフォンが1週間充電しなくても平気になったら。電気自動車が5分の充電で長距離を走れるようになったら。そしてAIデータセンターの電気代高騰が抑えられたら——そんな未来を左右するのが「電池」の進化です。
2026年の今、世界では日本・中国・アメリカが次世代電池の開発競争を繰り広げています。全固体電池、スライム電池、ナトリウムイオン電池、鉄空気電池……聞き慣れない名前が次々に登場する中、「結局どれがいつ実用化されて、私たちの生活はどう変わるのか」を、開発企業・実用化時期・性能・価格・用途まで一挙に整理しました。
📋 この記事の内容
【現状】世界の電池シェアは中国が圧倒
次世代電池の話に入る前に、まず「今」の勢力図を押さえておきましょう。2026年上半期のEV用電池の世界シェアは、次のようになっています。
| 企業・地域 | 世界シェア(2026年上半期) |
|---|---|
| CATL(中国) | 39.9% |
| BYD(中国) | 14.4% |
| 中国勢合計 | 72.4%(上位10社中7社が中国企業) |
| 韓国勢合計(LGエナジーソリューション・SK On) | 11.7% |
| 日本(パナソニックのみ) | 3.7% |
「かつて電池大国だった日本」と言われても、正直ピンとこない方も多いと思います。そこで、この30年の勢力変化を具体的な数字で振り返ってみます。
30年で61%→3.7%|日本の転落の歴史
| 時期 | 日本の状況 |
|---|---|
| 1990年代 | ソニー・三洋電機・パナソニックが先行し、リチウムイオン電池(民生用)で世界シェア9割以上を独占 |
| 2014年 | 車載用電池でも世界シェア61.0%(パナソニック38.0%+日産・NEC合弁のAESC23.0%)を占め、なお圧倒的な地位を維持 |
| 2016年 | パナソニックがテスラ向けにネバダ州「ギガファクトリー」へ16億ドルを投資し供給を拡大 |
| 2019年 | テスラが増産を要求するも、赤字続きのパナソニックは追加投資に慎重姿勢。テスラはLG化学・CATLなど複数サプライヤーへ分散を開始 |
| 2026年 | パナソニックのみが上位に残り、世界シェアは3.7%まで低下。CATL・BYDの中国2社だけで54%超を握る |
転落の理由は、単なる「技術力の差」ではありません。電池には主に2つの”形”があります。パナソニックが得意としてきた円筒形(乾電池のような筒状で、性能は高いが高コスト)と、世界の主流になりつつある方形(板状で、性能はやや控えめだが安く大量生産しやすい)です。また中身の素材も、パナソニックが得意な三元系(軽くできるが高コスト)から、世界はリン酸鉄リチウム=LFP(重いが安全で低コスト)へとシフトしています。
つまりパナソニックは、自分たちが強みとしてきた「高性能だが高コストな組み合わせ(円筒形×三元系)」にこだわり続けた結果、世界の主流になった「安くて量産しやすい組み合わせ(方形×LFP)」への切り替えに出遅れました。得意技にこだわった結果、市場の6割を占める新しい規格に乗り遅れた——これが、日本メーカーが直面した現実です。
だからこそ、この記事で紹介する「全固体電池」などの次世代技術で本命の巻き返しを狙う、という構図に意味が出てきます。同じ轍を踏まないためにも、今回の主役である全固体電池の量産を、規格の主導権ごと握れるかが焦点になります。
出典:Global EV battery market share in H1 2026(CnEVPost)/日本のバッテリーはなぜ61%から3.7%にまで急落したのか(中華IT最新事情)/パナソニックとテスラの車載電池協業(The社史)
💡 コラム:ライバル同士でも電池は融通し合う
意外に思うかもしれませんが、テスラは自社の電気自動車(モデルYの標準航続距離モデル)に、ライバルであるはずのBYDのブレードバッテリー(子会社FinDreams製)を採用しています。上海のメガファクトリー(蓄電池工場)向けにも、FinDreamsからLFPセルの供給を受ける契約を結んでいます。
また「電池最大手」のCATLは、実は自動車そのものは製造していません。電池セルを作るだけでなく、電池の交換・リサイクル・車体設計まで幅広く手がける“黒子的な巨大サプライヤー”というのが実態です。具体的には、ガソリンスタンドのように電池だけを交換できる「EVOGO」というサービス、使用済み電池をリサイクルする子会社「Brunp」、電池と車体の骨組みを一体化した「CIIC」という設計技術を展開しています。CIICは日産やマツダといった日本メーカーも採用を進めています。
早見表|次世代電池、いつ・どこまで進化する?
ここからは、注目の次世代電池技術を「商品化時期」「性能」「価格」「用途」で一覧にしました。価格が非公開・未定のものは、正直に「非公開」「未定」と記載しています。各項目の詳しい出典は、この後の各セクション内に個別に記載しています。
※表内の「Wh/kg(ワットアワー パー キログラム)」は、電池の重さ1kgあたりにためられる電力量を示す単位です。数値が大きいほど、同じ重さでより長く使える=軽くて長持ちな電池、とイメージしてください。
| 技術名 | 開発元 | 商品化時期 | 性能・特徴 | 価格 |
|---|---|---|---|---|
| 全固体電池 | 出光興産×トヨタ(日本) | 2027〜2028年量産開始 | エネルギー密度300〜400Wh/kg(理論値)、急速充電、低発熱 | トヨタ目標:2030年に50ドル/kWh |
| 全固体電池「Solstice」 | Factorial Energy(米国) | 2026年2月、商用車で搭載発表済み | エネルギー密度450Wh/kg達成 | 非公開 |
| 炭素素材「GMS」 | 3DC(東北大発) | 2024年サンプル出荷開始、2026〜2027年ごろ本格採用見込み | 電池の長寿命化・耐久性向上(添加剤) | 非公開(BtoB素材) |
| スライム電池「3D-SLISE」 | 東京科学大学 | 実用化目標5年 | 発火しない/水に溶けてレアメタル回収可/エネルギー密度は課題 | 非公開(研究段階) |
| ナトリウムイオン電池 | 東京理科大・GSユアサ等(日本) | 2027年度に耐久性目標、2030年代半ば実用化 | 充放電1万回で容量減10%以下目標、レアメタル不使用 | 低コスト化が期待される |
| ナトリウムイオン電池 | CATL(中国) | 2026年半ば、量産EVに搭載予定 | 充放電サイクル約5,000回(リチウムイオンの約10倍) | 資源制約が少なく低コスト |
| リチウム空気電池 | NTT(日本) | 研究段階、時期未定 | 理論上リチウムイオン電池の5〜8倍のエネルギー密度 | 非公開(研究段階) |
| 鉄空気電池 | Form Energy(米国) | 実用化段階(データセンター向け導入決定・稼働は今後) | 最大100時間の長時間放電、熱暴走リスクなし | リチウムイオン電池の約10分の1のコストで製造可能 |
EV編|航続距離と充電時間はここまで変わる

※AIによるイメージ画像です。
電気自動車にとって電池は心臓部です。「充電時間が長い」「航続距離が心もとない」という不満を解消する切り札として期待されているのが全固体電池です。
航続距離はどう変わる?現行モデル→次世代電池
性能の話をエネルギー密度(Wh/kg)だけで語られてもピンとこないと思うので、実際の走行距離(km)に置き換えてみます。
| 時期・電池 | 航続距離の目安 | 急速充電時間 |
|---|---|---|
| 現行トップクラス(bZ4X改良型・日産リーフ78kWh等、WLTCモード) | 約700〜750km | 30分以下 |
| 2026年発売予定「次世代電池パフォーマンス版」(液系電池の改良版、全固体電池ではない) | 約1,000km(bZ4X比でコストは20%減) | 20分以下 |
| 2027〜2028年 全固体電池 | 約1,200km | 10分以下(充電率10→80%) |
| 将来的なポテンシャル | 1,800km超との試算も | — |
注意したいのは、2026年発売予定の「次世代電池パフォーマンス版」は、まだ全固体電池ではなく液系電池の改良版だという点です。トヨタは全固体電池を待たずに、まず液系電池の改良で1,000km級を先に実現し、その後2027〜2028年の全固体電池で1,200km級・充電10分以下へとつなげる、という2段階の戦略を取っています。また、カタログ値(WLTCモード)と実際の航続距離には差があり、実走行ではカタログ値の7〜8割程度、冬場は6〜7割程度が現実的な目安になる点も押さえておきたいところです。
出典:トヨタ、航続距離1000kmを実現する「次世代電池パフォーマンス版」を展示へ(Car Watch)/航続距離1000kmの次世代バッテリー技術(AUTOCAR JAPAN)/電気自動車の走行距離はどれくらい?(Carconnect)
出光興産×トヨタ|2027〜2028年に量産開始
出光興産とトヨタ自動車は、硫化物系の固体電解質(電池の中でプラス極とマイナス極の間をつなぎ、電気を通す“固体の橋渡し役”の一種)を使った全固体電池の量産化に向けて協業しています。出光興産はこの橋渡し役の原料となる硫化リチウムの量産に213億円を投資し、2027〜2028年には年産1,000トン規模まで引き上げる計画です。トヨタは2026年からパイロットラインでの試作を開始し、2027〜2028年のEV搭載を目指しています。
出光興産提供・PIVOT公式チャンネルより(50万回視聴)。研究開発の背景を詳しく紹介しています。出典:次世代バッテリー素材 固体電解質(PIVOT)
出典:出光興産ニュースリリース/出光とトヨタの協業について(トヨタ自動車公式)
日産・ホンダも2028年目標
トヨタだけでなく、日産も2028年をEV向け全固体電池の実用化目標に掲げています。世界的に見ても、Samsung SDI・CATL・BYDが2027年の小規模量産を目標としており、2027〜2028年が全固体電池EVの最初の節目になりそうです。
出典:全固体電池 トヨタ・日産・ホンダのロードマップ(EVドライブナビ)
アメリカ勢|すでに商用化が始まっている技術も
アメリカでは、QuantumScape(Nasdaq:QS、時価総額約35億ドル前後)がフォルクスワーゲン傘下のPowerCoへのライセンス供与や、コーニング・村田製作所と、電池のプラス極とマイナス極が直接触れてショートしないよう仕切る部品「セラミックセパレーター」の量産提携を進めています。2026年にはホンダの研究開発部門とも技術提携を発表しました。コロラド州のSolid Power(Nasdaq:SLDP、時価総額は数億ドル規模で年内変動あり)は、SK On・Samsung SDI・BMWと提携し、2026年末に連続生産パイロットラインの稼働を目指しています。(時価総額はいずれも株価変動により日々変わる点にご留意ください)
特に注目なのが、マサチューセッツ州のFactorial Energyです。エネルギー密度450Wh/kgを達成した全固体電池「Solstice」を開発し、2026年2月にはKarma Automotiveと組んで、米国初となる商用全固体電池搭載車(Karma Kaveyaスーパークーペ)を発表しました。メルセデス・ベンツ、ステランティス、ヒョンデ、Kiaともパートナーシップを結んでいます。2026年6月にはSPAC(すでに上場している“空箱”の会社と合併することで、通常より早く・簡単に上場できる仕組み)を通じてNasdaqに上場し、時価総額は約13億ドル。上場により約1億ドルの資金を調達し、技術開発を加速させています。
出典:QuantumScapeの提携動向(The Motley Fool)/Solid Powerのパイロットライン計画(24/7 Wall St.)/Factorial EnergyとKarma Automotiveの提携(IBTimes)/Factorial EnergyのNasdaq上場(Value Add Pulse)
日本のナトリウムイオン電池|東京理科大・GSユアサ等が耐久性で勝負
ナトリウムイオン電池は中国勢の専売特許ではありません。日本でも東京理科大学とGSユアサなど14機関が共同で実用化を目指しており、2027年度までに充放電1万回で容量減10%以下という耐久性目標を掲げています。リチウムなどのレアメタルを使わないため資源制約が少なく、実用化は2030年代半ばを見込んでいます。東京大学・京都大学・早稲田大学など12のトップ大学と研究機関を結集させた政府資金プロジェクト「JST GteX事業」も、この技術の社会実装を後押ししています。
出典:「ナトリウムイオン電池」実用化へ、東京理科大など耐久性向上に挑む(ニュースイッチ)
中国勢|ナトリウムイオン電池で先行実用化
中国のCATLは、全固体電池の本命技術では2027年の小規模量産を目標にしています。ただしそれを待たずに、より早く実用化できる「ナトリウムイオン電池」を2026年半ばに量産EVへ搭載する計画も並行して進めています。
ナトリウムイオン電池は、リチウムなどのレアメタルを使わないため資源の制約が少なく、充放電サイクル(電池を「使い切って→また満タンにする」を1セットとした回数)は約5,000回。リチウムイオン電池(約500回)の約10倍という長寿命が特徴です。日本勢が全固体電池という「本命」で先行を目指す一方、中国は半固体・ナトリウムイオン電池という「現実解」で市場を押さえに来ている構図です。
出典:ナトリウムイオン電池とCATLのEV実用化(sbbit)
「安い」中国のバッテリーが世界を制した背景を解説。出典:NewsPicks(7.8万回視聴)
スマホ・PC編|「1週間充電しなくていい」は来るのか

※AIによるイメージ画像です。
次世代電池がもっとも生活実感に直結するのが、スマートフォンやノートPCといった身近なデバイスです。
NTTのリチウム空気電池|理論上5〜8倍のエネルギー密度
NTT先端集積デバイス研究所が研究しているリチウム空気電池は、理論上、既存のリチウムイオン電池の約5〜8倍のエネルギー密度を持つとされています。実現すれば、スマートフォンなどの端末用電源として使った場合に1週間以上充電が不要になる可能性がある、と紹介されています。ただし正直にお伝えすると、まだ研究段階で実用化時期は明言されておらず、世界中で開発競争が進む一方、性能評価の手法自体がまだ統一されていない状況です。
3DC「GMS」|今あるスマホ電池を長持ちさせる素材
東北大学発ベンチャーの3DCが開発した炭素新素材「GMS」は、新しい電池を作る技術ではなく、既存のリチウムイオン電池に添加することで寿命と性能を底上げする導電助剤です。原子1個分の薄さの壁でできた中空の3D構造が特徴で、スマホや自動車向けの電池での採用が想定されています。2024年2月にサンプル出荷を開始しており、本格的な量産導入は2026〜2027年ごろと見込まれています。
中国が先行するナトリウムイオン・モバイルバッテリー
家電量販店向けの分野では、すでに中国製のナトリウムイオン電池セルを使ったモバイルバッテリーを、エレコムが国内で発売しています。車載で実績のあるセルを転用したもので、次世代電池が最も早く一般消費者の手元に届いた例のひとつと言えそうです。
出典:リチウム空気二次電池技術(NTT)/カーボン系の新素材「GMS」(MONOist)/ナトリウムイオン電池がモバイルバッテリーに(MONOist)
データセンター編|AIの電気代高騰は電池とIOWNが救う?

※AIによるイメージ画像です。
AI活用の広がりとともに深刻化しているのが、データセンターの消費電力問題です。GPU・TPUが推論・学習処理時に瞬間的に大電力を消費するため、電力負荷の変動幅が従来のサーバー施設よりも格段に大きくなっています。
今、現場を支えているのはリチウムイオン蓄電池
現状では、全固体電池のような次世代技術ではなく、既存のリチウムイオン蓄電池が電力の緩衝材として活躍しています。パナソニック エナジーはリチウムイオン電池を使った分散型電源システムでデータセンターの安定稼働を支えており、NTTファシリティーズも新神戸電機と共同開発した大容量リチウムイオン電池(200Ahセル。Ahは電池がどれだけ長く電流を流し続けられるかを示す単位で、数値が大きいほど大容量)を、川崎のデータセンターにUPS(停電時に一時的に電力を供給する非常用電源)用途として導入しています。
出典:AIデータセンターの電力問題(パナソニック エナジー)/情報通信・データセンター用大容量リチウムイオン電池(NTTファシリティーズ)
本命はアメリカ発の「鉄空気電池」
そんな中で切り札として急浮上しているのが、アメリカ・ウェストバージニア州のForm Energyが開発する鉄空気電池です。鉄がさびる化学反応を利用した電池で、リチウムイオン電池の約10分の1のコストで製造でき、最大100時間という長時間の放電が可能。液体電解質を使わないため、電池内部の温度が制御できずに急上昇し発火・爆発につながる「熱暴走」のリスクもありません。
2026年2月、Googleはミネソタ州のデータセンター向けに、Form Energyの鉄空気電池を採用すると発表しました。出力300メガワット・容量30ギガワット時(30GWh)という、世界最大級の蓄電システムです。AIデータセンター向けクラウド企業のCrusoeとも12GWhの供給契約を結んでおり、Form Energyの受注残高は2026年初めの約20GWhから80GWhへと4倍に急増しています。
出典:Form Energy公式サイト/Googleのミネソタ データセンター案件(Energy-Storage.News)
電池以外のアプローチ|NTT「IOWN」で消費電力そのものを減らす
電池は「電力をどうためるか」という切り口ですが、そもそも「電力の消費そのものを減らす」というアプローチもあります。その代表格が、NTTが2019年に提唱した次世代通信基盤構想「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」です。
サーバーや通信機器の内部では、電気信号が機器を経由するたびに電気⇔光へと変換され、そのたびに電力と熱が生まれています。IOWNの中核技術「光電融合」は、この電気⇔光の変換をできる限り減らし、信号を光のまま伝送することでムダを削る仕組みです。
この仕組みにより、NTTは2030年ごろをめどに、データセンターが同じ処理をするのに必要な消費電力を100分の1、伝送容量を125倍、遅延を200分の1にすることを目指しています。ただしこれは段階的な目標で、装置・基板・チップの内側へと光化を広げていく中で、完全な達成は2032年以降が見込みとされています。
実用化に向けた動きもすでに始まっています。2026年度には米Broadcomや新光電気工業などと協業し、光電融合デバイスの商用展開を開始する計画です。欧州の標準化団体ETSIとも連携し、世界標準の獲得を目指す動きも進んでいます。
NTTのIOWNが欧州で実用化に向けて動き出したニュース。出典:NTT「IOWN」欧州で実用化へ(テレ東BIZ、17万回視聴)
出典:膨張するデータセンターの電力を、光で止める(ENERGY FRONTLINE)/NTTが米Broadcomなどと協業しIOWN実用化へ(Xtech日経)
安全性という切り口|発火しない電池の可能性
電池の性能競争と並んで重視されているのが「安全性」です。リチウムイオン電池は発火事故のリスクが常につきまとってきました。
東京科学大学の白鳥洋介特任教授が開発した「スライム電池(正式名称:3D-SLISE)」は、燃えない”スライム状の物質”を電解質に使った、世界初のリチウムイオン電池です。水ベースの電解質のため、そもそも燃えることがないという構造になっています。さらに、使用済みの電池を水に溶かすだけでリチウムなどのレアメタルを簡単に回収できるというリサイクル性も兼ね備えています。低コストな製造工程も強みですが、電圧が低いためエネルギー密度や出力の面では不利になる場面があり、高いパワーを必要とする用途にはさらなる改良が必要とされています。実用化の目標は5年です。
出典:スライム電池を白鳥洋介が開発(日常の解ブログ)/白鳥洋介 researchmap
スライム電池・3DCの「GMS」など、日本発のブレイクスルー技術をまとめたテレ東BIZの特集。出典:“寿命100年”充電池/スライム電池 技術まとめ(テレ東BIZ)
年表でみる実用化ロードマップ
| 時期 | 予定されている動き |
|---|---|
| 2026年 | 3DCのGMSが本格採用に向け展開拡大/Solid Power(米)がパイロットライン稼働/CATLのナトリウムイオン電池が量産EVに搭載開始 |
| 2027年 | 出光興産の硫化リチウム量産体制が年産1,000トン規模へ拡大/東京理科大等のナトリウムイオン電池が耐久性目標を達成/CATL・BYD・Samsung SDIが全固体電池の小規模量産を目標 |
| 2027〜2028年 | トヨタ・日産が全固体電池搭載EVを市場投入 |
| 2030年 | トヨタが全固体電池のコスト目標50ドル/kWhを目指す/ナトリウムイオン電池が硫化物系全固体電池と並ぶ市場の柱に |
| 2030年代半ば | 東京理科大等のナトリウムイオン電池が実用化/全固体電池が普及価格帯へ浸透 |
| 2035年 | 次世代電池市場全体で約7兆2,763億円規模に拡大(別調査による全固体電池単体の推計では約2兆6,772億円という数値も) |
出典:次世代電池市場、2035年は7兆2763億円規模へ(EE Times Japan)/全固体電池の世界市場、2035年には2兆6772億円に(Xtech) ※2つの数値は調査時期・集計区分が異なる別々の調査によるものです
よくある質問
Q. 全固体電池とはどんな電池ですか?
全固体電池は、従来のリチウムイオン電池が使う液体の電解質をすべて固体に置き換えた電池です。液漏れや発火のリスクが低く、急速充電や高いエネルギー密度が期待できます。トヨタと出光興産は2027〜2028年の量産開始を目指しています。
Q. 全固体電池はいつ実用化されますか?
トヨタは2027〜2028年、日産も2028年をEV搭載の目標にしています。アメリカのFactorial Energyは2026年にKarma Automotiveと商用車での搭載を発表済みです。ただし普及価格帯への浸透は2030年代半ば以降になるとの見方が有力です。
Q. スライム電池とは何ですか?
東京科学大学の白鳥洋介特任教授が開発した「3D-SLISE」という電池で、水ベースの電解質を使うため発火しないのが特徴です。使用後は水に溶かすだけでリチウムなどのレアメタルを回収できます。実用化目標は5年とされています。
Q. 電池の世界シェアは今どうなっていますか?
2026年上半期のEV用電池の世界シェアは、中国のCATLが39.9%、BYDが14.4%で、中国勢合計で72.4%を占めています。韓国勢合計は11.7%(LGエナジーソリューション8.6%+SK On 3.1%)、日本はパナソニックのみで3.7%まで落ち込んでいます。
Q. 日本の電池シェアはなぜこんなに下がったのですか?
日本は2014年時点で車載用電池の世界シェア61.0%(パナソニック38.0%+AESC23.0%)を誇っていましたが、世界の主流が方形・リン酸鉄リチウム(LFP)電池へ移る中、パナソニックは得意としていた円筒形・三元系電池に固執しました。また2019年以降、テスラがパナソニック一社依存からLG化学・CATLなど複数サプライヤー体制へ移行したことも響き、現在は3.7%まで低下しています。
Q. 日本発の次世代電池技術にはどんなものがありますか?
出光興産×トヨタの全固体電池、東北大発ベンチャー3DCの炭素素材「GMS」、東京科学大学のスライム電池、東京理科大・GSユアサ等によるナトリウムイオン電池、NTTのリチウム空気電池などが開発中です。
Q. AIデータセンターの電力問題は電池で解決できますか?
アメリカのForm Energyが開発する鉄空気電池が有力な解決策として注目されています。最大100時間の長時間放電が可能で、Googleのミネソタ州データセンターに300MW/30GWhという世界最大級の蓄電システムを納入することが決まっています。
Q. NTTのIOWNとはどんな技術ですか?
IOWNはNTTが2019年に提唱した次世代通信基盤構想で、電気信号を光信号のまま伝送する「光電融合」技術が中核です。電池のように電力をためる技術ではなく、消費電力そのものを減らすアプローチで、2030年ごろにデータセンターの消費電力を100分の1にすることを目指しています。
まとめ|”ものづくり大国”日本の逆転劇はあるか
世界シェア3.7%という厳しい現状から、日本は「全固体電池」という本命技術での巻き返しを狙っています。出光興産とトヨタの量産計画、東北大発3DCの新素材、東京科学大学のスライム電池、そしてNTTのリチウム空気電池——どれも一朝一夕には生まれない、緻密な素材開発と製造技術の積み重ねの上に成り立つ技術です。
石川県の伝統工芸が「精密な手仕事」で世界に価値を認められてきたように、次世代電池という最先端分野でも、日本の強みは結局のところ「素材」と「製造精度」にあります。ナノレベルの炭素構造を制御する3DCの技術も、能登の職人が積み重ねてきた技術も、根っこにあるのは同じ「ものづくり」への執着です。電池競争の行方は、ガジェットやEVの買い替え時期だけでなく、日本の”ものづくり大国”としての立ち位置そのものを占う指標として、これからも注目していきたいテーマです。
電気を「ためる」側の技術を見てきたところで、次は「つくる」側の最新技術も気になりませんか? 同じく日本発の次世代エネルギー技術として、下記の記事もあわせてどうぞ。



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