曲がる太陽電池とは|ペロブスカイト実用化はいつ?日本発技術の今【2026年】

曲がる太陽電池ペロブスカイトを手で曲げているイメージ画像
記事内に広告(Amazon、楽天、Yahoo!等)が含まれています。

建物の壁にも、窓にも、カバンにも貼れる太陽電池——。そんな「曲がる太陽電池」が、いよいよ実用化の段階に入っています。正式にはペロブスカイト太陽電池と呼ばれるこの技術は、2009年に日本の研究者が生み出したものです。

2025年10月にはJR博多駅のホーム屋根で国内初の実証実験が始まり、積水化学工業は2027年の量産開始を予定。一方で、中国では100社以上が開発に参入し、量産では先行を許しつつあるのが現状です。この記事では、仕組みからメリット・課題、実用化の時期、開発企業の動向、そして石川県・金沢大学発のリサイクル技術まで、最新情報を出典付きで整理します。

スポンサーリンク

曲がる太陽電池「ペロブスカイト」とは

ペロブスカイト太陽電池は、「ペロブスカイト」と呼ばれる特定の結晶構造を持つ材料を発電層に使った太陽電池です。フィルムのように薄く・軽く・曲げられるのが最大の特徴で、従来のシリコン型太陽電池では重すぎて設置できなかった場所にも貼り付けられます。

机の上で片手でめくると波打つように曲がる、薄いフィルム型の次世代太陽電池

※AIによるイメージ画像です。

生みの親は日本人研究者

この技術は、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力(みやさか つとむ)教授のグループが考案した日本発の技術です。発表当時のエネルギー変換効率はわずか3.9%程度でしたが、その後の世界的な研究競争により、現在では26.7%まで向上しています。

※この26.7%は「単接合セル」の研究レベルでの認証値です。実際に製品化される大きなモジュールでは効率が下がるため、店頭に並ぶ製品の数値とは別物である点にご注意ください。また後述する中国企業の「27%以上」は、2種類の材料を重ねたタンデム型の数値であり、比較の軸が異なります。

シリコン型との違い

項目 従来のシリコン型 ペロブスカイト型
厚さ・重さ 厚く重い(ガラス基板) 約1mm・フィルム状で軽量
形状 平らな板状のみ 曲げられる(曲面にも設置可)
設置場所 耐荷重のある屋根・地上 壁面・窓・耐荷重の小さい屋根
室内光での発電 苦手 弱い光でも発電できる
変換効率 約20%前後(実用品) 26.7%(研究段階の単接合セル認証値)
耐久性・寿命 25〜30年と長い 現行品で約10年(20年相当を目標に改善中)

出典:桐蔭横浜大学 宮坂研究室ペロブスカイト太陽電池の変換効率とは(関西電力)

何がすごい?4つのメリット

① 設置できる場所が一気に広がる

最大の価値はここにあります。日本は平地が少なく、大規模な太陽光発電所を作れる土地に限りがあります。しかしペロブスカイト太陽電池なら、ビルの壁面、窓ガラス、工場の折板屋根、駅のホーム屋根など、これまで「重さ」を理由に諦めていた場所が発電所になります。

② 室内の弱い光でも発電できる

蛍光灯やLEDのような弱い光でも発電できるため、屋外に限らずセンサーやIoT機器の電源としての活用も期待されています。

③ 主原料のヨウ素を日本で調達できる

意外に知られていませんが、ペロブスカイト太陽電池の主原料であるヨウ素は、日本が世界シェア第2位の生産量を誇る資源です。シリコン型太陽電池で原料調達と生産を海外に握られた反省から、「国内で資源を確保できる」ことが日本にとって戦略的な強みになると考えられています。

④ 製造時のエネルギーが少なくて済む

シリコン型は高温での精製が必要ですが、ペロブスカイトは塗布や印刷に近い工程で作れるため、製造時のエネルギー消費とコストを抑えられる可能性があります。

弱点は?デメリットと課題

期待の大きい技術ですが、正直にお伝えするとまだ解決すべき課題が残っています

① 耐久性・寿命が短い

ペロブスカイト材料は水分・酸素・熱・紫外線に弱く、劣化しやすいという弱点があります。シリコン型が25〜30年もつのに対し、現行のペロブスカイト製品の耐用年数は約10年程度とされ、まだ大きな差があります。

ただし改善は進んでおり、積水化学工業は液晶パネル製造で培った封止技術を応用し、20年相当の耐久性の実現を目標に掲げています。ここがシリコン型に並べば、実用化の最大の障壁が取り除かれることになります。

出典:「ペロブスカイト太陽電池」耐久20年実現へ、積水化学(ニュースイッチ)名古屋大学、ペロブスカイト太陽電池の寿命20年に(日本経済新聞)

② 鉛を使用している

現在主流のペロブスカイト材料には有害物質である鉛が含まれています。使用量はごくわずかとはいえ、大量に普及した後の廃棄・リサイクルをどうするかが、社会実装に向けた大きな論点になっています。

ただしこの鉛の問題については、後述する金沢大学のリサイクル技術のように、解決に向けた研究も着実に進んでいます。「鉛が入っているから危険」で思考停止せず、回収の仕組みまで含めて見ていくことが大切です。

③ 大面積化が難しい

小さなセルでは高い変換効率が出ても、実用サイズの大きなモジュールにすると効率が落ちるという課題があります。均一に塗る技術の確立が量産化の壁になっています。

自宅に導入できる?いつ買える?

「結局、いつになったら自宅に付けられるのか」——最も気になるところだと思います。現時点の状況を整理します。

すでに実証実験は始まっている

2025年10月21日、JR九州が博多駅のホーム屋根で、国内初となるペロブスカイト太陽電池の実証実験を開始しました。エネコートテクノロジーズ、日揮ホールディングスとの3社共同で、設置したのは20枚のパネル。1枚あたり縦36cm×横46.5cm、厚さはわずか1mmで、20枚合計の出力見込みは320Wです。発電した電力は待合室の照明などに使われます。

駅のホーム屋根は耐荷重に制限があり、従来のシリコン型パネルは設置できませんでした。この「重くて置けなかった場所」で発電できることこそ、ペロブスカイト太陽電池の真価です。

量産のロードマップ

時期 予定されている動き
2025年 JR博多駅で国内初の実証実験開始/積水ソーラーフィルム設立(積水化学86%・日本政策投資銀行14%)
2027年 積水化学工業が100MWの製造ライン稼働を予定
2030年度 積水化学がGW(ギガワット)級への生産能力拡大を目標/金沢大学発スタートアップが製品供給開始を目標

政府目標は「2040年に600万世帯分」

普及のスピード感を測る上で参考になるのが、政府の導入目標です。経済産業省は2040年までにペロブスカイト太陽電池を20GW導入するという目標を掲げています。これは約600万世帯分の電力に相当し、原発20基分に匹敵する規模です。発電コストがまだ既存のシリコン型より高いため、国は研究開発や量産設備への支援を通じてコストを引き下げる方針で、コストを大きく下げられれば目標を40GW以上に引き上げる可能性もあるとしています。

政府目標の背景と課題を解説したニュース映像。出典:次世代型「ペロブスカイト」の”夢と現実”(日テレNEWS、1.7万回視聴)次世代太陽電池、40年に20ギガワット目標 600万世帯分(時事通信)

一般家庭で買えるのは2030年前後が目安

正直なところ、今すぐ家電量販店で買えるものではありません。当面は駅・ビル・工場といった法人向けの大型案件が先行し、一般家庭向けに現実的な価格で流通するのは2030年前後と見るのが妥当です。

価格についても、現時点では法人向けの個別案件が中心で、一般向けの定価が示されている段階ではありません。将来的には塗布・印刷に近い工程で作れることからシリコン型より安くなると期待されていますが、量産が立ち上がるまでは割高になると見ておくのが現実的です。

現在すでに太陽光発電の導入を検討している方は、「ペロブスカイトを待つ」よりも、まず既存のシリコン型で検討を進め、将来的に壁面や窓などシリコン型では設置できない場所に追加するという考え方が現実的でしょう。耐用年数もシリコン型が25〜30年、ペロブスカイト型が現状10年程度と差があるため、両者は競合するというより、設置場所を補い合う関係にあります。

出典:JR九州、博多駅ホーム屋根にペロブスカイト太陽電池(日本経済新聞)次世代太陽電池、博多駅ホームに設置(西日本新聞)積水化学、ペロブスカイト量産化 2027年100MW製造ライン稼働(環境ビジネスオンライン)

開発企業と世界競争|中国に先行される日本

日本企業の戦略は「棲み分け」

日本発の技術でありながら、日本勢は正面からの物量勝負を避け、それぞれ独自の路線を選んでいます。

企業 戦略・特徴
積水化学工業 製造難度の高いフィルム型で設置場所の自由度を追求。2027年に100MWライン稼働予定
パナソニックHD 大量生産ではなく建材一体型など少量多品種・カスタマイズへ舵を切る
東芝 フィルム型・透明型の開発を推進
カネカ/アイシン/リコー それぞれ独自の用途開発を進行中
エネコートテクノロジーズ 京都大学発のスタートアップ。JR博多駅の実証に参画

量産では中国が先行している

厳しい現実もお伝えします。中国では100社以上がペロブスカイト太陽電池の開発に参入しており、EV電池最大手のCATLやBYDまで研究に乗り出しています。

シリコン型太陽電池大手の協鑫集団(GCL)は、江蘇省昆山市にギガワット規模の生産拠点を建設し、変換効率27%以上のタンデム型モジュールの量産を計画。スタートアップの極電光能(ウトモライト)繊納光電(マイクロクアンタ)も量産化が近いとみられています。

背景には、設備投資のスピードと規模の差があります。中国勢は国を挙げた支援のもとギガワット級の拠点を一気に立ち上げるのに対し、日本勢は耐久性や品質を作り込んでから量産に移る慎重な進め方を取っています。技術力の差というより、投資判断の速度と規模の違いが表れている構図です。

かつてシリコン型太陽電池で、日本は技術で先行しながら量産・価格競争で中国にシェアを奪われました。ペロブスカイトで同じ轍を踏むのか——それが今まさに問われている局面です。

出典:ペロブスカイト太陽電池、中国100社以上が開発 CATL・BYDも研究(日本経済新聞)タンデム型ペロブスカイト太陽電池、中国企業が量産化(ニュースイッチ)製品化で先行する中国企業が大型モジュールを披露(スマートジャパン)

石川発|金沢大学の研究とリサイクル技術

ペロブスカイト太陽電池の話題は、東京・京都の研究機関に集まりがちです。しかし石川県の金沢大学ナノマテリアル研究所が、この分野で他にはない独自のポジションを築いていることは、あまり知られていません。

金沢大学の強みは「作る・長持ちさせる・回収する」の一貫性

當摩哲也(とうま てつや)教授、モハマド・シャヒドゥザマン准教授らの研究グループは、製造から長寿命化、さらに廃棄後の回収まで一貫して手がけている点に特徴があります。

① 大気下での安定成膜

ペロブスカイトの膜は通常、水分や酸素を嫌うため特殊な環境での製造が必要ですが、金沢大学は湿度40%の大気下でも作製できる技術を確立しました。特殊な設備を必要としない分、量産コストを下げられると期待されています。

② イオン液体1滴での長寿命化

ペロブスカイトの前駆体溶液にイオン液体をわずかに加えるだけで、高性能化と長寿命化を同時に実現する手法を開発。最大の弱点である「寿命の短さ」に、極めてシンプルな方法で切り込んでいます。

③ 鉛を99.7%回収するリサイクル技術

そして2026年、當摩教授らのグループは使用済みペロブスカイト太陽電池からのリサイクル技術を発表しました。封止されたフレキシブル太陽電池を低濃度の混酸で処理し、セルロース系吸着材とキレート樹脂を組み合わせることで、以下の回収率を達成しています。

回収する物質 回収率
99.7%
91.6%
インジウム 100%

先ほど「デメリット」として挙げた鉛の問題に、真正面から答えを出す技術です。有害物質を回収できるだけでなく、金やインジウムといった希少金属も同時に取り出せるため、廃棄コストではなく資源回収というビジネスに変わる可能性を秘めています。

北陸に生産拠点を置く大学発スタートアップ

當摩教授らは、この技術群をもとに大学発スタートアップを設立。北陸地方に生産拠点を整備し、2030年ごろの製品供給を目指しています。能登半島の繊維産業や金沢の伝統工芸が示してきたように、北陸には「素材を扱い、精度を出す」ものづくりの土壌があります。その延長線上に次世代太陽電池の量産拠点が生まれようとしているのは、地元として楽しみな動きです。

出典:ペロブスカイト太陽電池でスタートアップ…金沢大、独自技術で長寿命・低コスト化(ニュースイッチ)イオン液体を一滴加えるだけでペロブスカイト太陽電池の高性能化と長寿命化に成功(金沢大学)大気下で安定して作れる長寿命化技術の開発に成功(金沢大学)金沢大学:ペロブスカイト太陽電池のリサイクル技術を開発(PVリサイクル.com)

よくある質問

Q. ペロブスカイト太陽電池とは何ですか?

「ペロブスカイト」という結晶構造を持つ材料を使った次世代の太陽電池です。フィルムのように薄く軽く、曲げられるのが最大の特徴で、これまで設置できなかった建物の壁や窓、耐荷重の小さい屋根にも貼れます。2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授のグループが考案した日本発の技術です。

Q. 実用化はいつですか?

すでに実証段階に入っており、2025年10月にはJR九州が博多駅のホーム屋根で国内初の実証実験を開始しました。量産では積水化学工業が2027年に100MWの製造ライン稼働、2030年度にGW級への拡大を計画しています。一般家庭で気軽に買えるようになるのは2030年前後が目安です。

Q. デメリットは何ですか?

水分・酸素・熱・紫外線に弱く、従来のシリコン型に比べて寿命が短いことが最大の課題です。また、多くの製品が有害な鉛を含むため、廃棄時の環境負荷が懸念されています。ただし鉛については、金沢大学が使用済み電池から鉛を99.7%回収するリサイクル技術を2026年に発表するなど、対策も進んでいます。

Q. 従来のシリコン型と何が違いますか?

最大の違いは「薄さ・軽さ・柔軟性」です。厚さ1mm程度でフィルムのように曲げられるため、シリコン型では重すぎて設置できなかった場所にも貼れます。また室内のような弱い光でも発電できる点も特徴です。一方、変換効率の持続性や寿命ではシリコン型がまだ優位です。

Q. 開発している企業はどこですか?

日本では積水化学工業(フィルム型)、パナソニックホールディングス(建材一体型)、東芝、カネカ、アイシン、リコー、京都大学発のエネコートテクノロジーズなどが開発しています。海外では中国の協鑫集団(GCL)や極電光能が量産で先行しており、中国では100社以上が開発に参入しています。

Q. 原料は日本で調達できますか?

主原料であるヨウ素は、日本が世界シェア第2位の生産量を誇ります。シリコン型太陽電池で原料や生産を海外に依存した反省から、国内で資源を調達できる点がペロブスカイト太陽電池の戦略的な強みとされています。

まとめ|日本発の技術は世界で勝てるか

ペロブスカイト太陽電池は、日本人研究者が生み出し、変換効率3.9%から26.7%へと世界中の研究者が育ててきた技術です。壁にも窓にも貼れるという特性は、平地の少ない日本にとって特に価値が大きく、JR博多駅の実証実験のように「重くて置けなかった場所」から実用化が始まっています。

一方で、量産では中国が明確に先行しています。かつてシリコン型で技術に勝ちながら市場で敗れた歴史を繰り返すのか、それとも積水化学のフィルム型やパナソニックの建材一体型のような「棲み分け戦略」で活路を見出すのか。今後数年が正念場です。

そして石川県では、金沢大学が作る・長持ちさせる・回収するまでを一貫して研究し、北陸に生産拠点を持つスタートアップの設立へと進んでいます。最先端のエネルギー技術の現場が地元にあることは、このサイトとしても引き続き追いかけていきたいテーマです。

関連記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました